投稿

3月, 2026の投稿を表示しています

思い出のリサイクル

イメージ
  小川洋子さんのエッセイ集『カラーひよことコーヒー豆』を読んだ。著者が効率よくリサイクルする才能として自慢できるのは、ささいな思い出を大事にし、何度でもよみがえらせて、その度に感動を新たにすることができる、と書いておられる。例えば、として、こんな出来事を記されていた。  ――お味噌汁に入れるお豆腐を掌の上で切っている時、必ず思い出す風景がある。息子がまだ言葉を覚えて間がなかった頃、私が同じようにそうやってお豆腐を切っているのを見つけた彼は、不意に叫び声を上げた。  「ママ―、おててが切れちゃうよ」  そう言って、私の足に抱きつき、涙をポロポロ流したのである。  西日の当たる台所で、お味噌汁の湯気が立ち込める中、冷たいお豆腐を掌に載せていると、息子の声がよみがえってくる。ママー、おててが切れちゃうよ。その言葉が心のなかに響き渡る。自分には心の底から純粋に泣いてくれる人がいる。そんな思いに浸って、幸せをかみ締める。泣いてくれた本人はすっかり大人になり、そんなことなど少しも覚えていないのだけれど。―― 想い出の箱が頭の中にあるのなら、思い出して嬉しくなるようなものを入れていこう。