見えない助っ人マックス
もう30年あまり以前になるが、アメリカの修道院に1年ほど滞在した。その折に出会ったシスターが「マックスに頼めば、駐車場のスペースでも見つけてくれるよ」と言って、はがきサイズのカードをくれた。カードはマキシミリアン・コルベ神父像の写真であった。シスターがマックスと呼んだのは、コルベ神父のことである。コルベ神父は、知られているように、アウシュヴィッツ強制収容所で餓死刑に選ばれた男性の身代わりとなり、1941年8月14日に亡くなった。1982年10月10日、カトリック教会によって列聖されている。
大学の教授で、日ごろ沈着冷静なシスターが面白いことを言うな、くらいの気持で受け取っていたので、アメリカ滞在中は、マックスのお世話になることもあまりなかった。それでも日本に帰るとき、例のカードはちゃんと持ち帰った。シスターの言葉をまったく無視できなかったからだろう。
それからは、たびたびマックスのお世話になっている。印象に残った例がいくつかある。一つは、何年か前になるが、私の知人の体験である。「クラッチバッグを山手線のなかに置き忘れたらしい」と彼女から電話があった。クレジットカードや現金も入ったままで、カードはカード会社に電話して止めてもらったけれど、どうしよう、と泣き出さんばかりだった。どうすればいいのか、なにか助けてあげられないか。電話を受けながら、ふとマックスのことを思い出した。その人は、カトリック信者でもなかったけれど、「アメリカ人のシスターに教わったのだけれど、マックスにお願いしてみたらどうかしら。信じないかもだけれど、ためしにお祈りしたら」と言ってみた。2,3日後だったと思う。彼女からの電話で、警察から連絡があり、バッグが届けれたとのこと。中身もそのままだったらしい。
このごろ私は度々マックスのお世話になる。先日はカーディガンのボタンが一つ無くなっているのに気が付いた。ボタンたった一つだけれど、私にとっては大事件である。同じボタンはまず見つからないだろう。同じようなものを一つだけ買って付けるわけにはいかない。五個買って、みんな付け替えなくちゃならない。アーーア。
マックスにお願いした。そのあと、最初に出会った人に、「ボタンを失くしたのだけれど」と言ったところ、「どんな色?」「グレーっぽいの」「ちょっと待って」と言って、彼女は家のなかに入り、そのボタンを手に出てきた。びっくり!早速「マックス、ありがとうございました」と心の中で言った。もちろん、その人にもお礼を。声に出して。
時間と空間を超越する霊の存在を私は信じている。人のため自分の命すら惜しまない霊が、今も私たちを助けたいと思ってくれている。願いさえすれば、助けてくれる。
そんなの、偶然だろ、と思う方もあるだろう。でも、もしとても困ったとき、ためしにマックスに頼んでみては?半信半疑の願いでも、マックスは助けてくれるだろう。