アッシジの聖フランシスコ
半世紀ほど前になる。終生誓願を立てる準備のため、30名ほどの修道女の卵が世界の国からアッシジに集まった。スペインから6、7人、アメリカからも同じくらい。ほかはメキシコ、ポーランド、オーストリア、イギリス、アイルランド、スコットランド、フィリッピンなどから1,2名。日本からは私だけだった。ともにアッシジで3カ月ほどを過ごした。
宿泊したのは、巡礼者用宿舎であった。丘の上にある城壁に囲まれた地域内にあった。お隣がオリーブオイルを製造する工場で、夜中は電気料金が安いとかで、夜になると、ガタンガタンと音がしていた。
色んな事を体験させてもらった3カ月だったけれど、指導者だったスペイン人のシスターが話してくれたことが今も心に残っている。弟子の一人が「神のみ旨とは何ですか」と尋ねたとき、聖フランシスコは「あなたが心の底から望むこと」と答えたということだった。でも、それを見つけるのは、やさしくないのではないか。少なくとも、私が見つけることができたのは、還暦近くになってからだった。
こんなことを考えていたら、甥のことを思い出した。彼は高校生のときに陶芸家ルーシー・リーの作品をぐうぜん見て、心を打たれ、イギリスまで行った。彼女の家をたずね、ルーシーに会って、作品を見せてもらっている。その後、京都教育大学に進み、陶芸の道を一筋に進んだ。こんな風に「心の底から望むこと」を見つける人もあるのだろう。現在、50歳近くなっている。いろいろ苦労をしたらしいが、私にはまぶしいほどの人生に思われる。
アッシジから帰ってきて、しばらくして、アッシジの写真集を眺めていた。記事の一つが、「愛するよりも、愛することを」という祈りについてであった。聖フランシスコの祈りとされているが、実は20世紀初頭に作られたものだと書かれていた。私自身、この祈りに何かしっくりこないものがあったので、納得だった。そういえば、アッシジの売店で、祈りの言葉を書いたカードなどが売られていたが、この祈りのカードはなかった。