心のからくり
40年ほど前のこと、シカゴにいた。ロヨラ大学の付属機関の霊性研究所で9ヵ月のコースに参加していた。3人のイエズス会の司祭と3人のシスターが指導者だった。所長の司祭は、心理学を土台にする、経験的霊性を説く人だった。40人ほどの参加者で、半数はアメリカ人、残る半数はあちこちの国から来ていた。
週5日のプログラムで、毎朝9時に1時間の所長の講話で始まった。その後、参加者は8人ずつ位のグループに分かれて、午後3時まで、いろんな演習をした。アメリカ・インディアンの昔話やグリム童話を取り上げるグループ、夢を扱うグループ、サイコシンセシスを学ぶグループ、フォーカシングのグループ、などなど。所長以外の5人のスタッフがグループの指導に当たっていた。
あるとき、所長が講話で、若い母親から生まれた女の子は、父親の愛情を得ようと、母に対してライバル心をもつことがある、と軽く触れた。「そういえば、私は母が20歳のときの子どもだけれど…そんなことあるかしら?」と思い返していると、そのとたん、女性の指導者たちに対して私がもっていた競争心が抜け落ちるのを感じた。そんな競争心をもっていることすら気づいていなかったのに。
ちょっとした心理学の知識が、人の心を囚われから自由にしてくれることがある。