桃の思い出

福島の親しい方から桃を送っていただいた。ご苦労が多かっただろう福島から頂き物をするのは、申し訳ない気がけするれど、お気持をありがたく頂戴する。香りがよくて、甘い桃だった。

桃の最初の思い出は、小学生になる以前、神戸市須磨区の海岸近くに住んでいた時のことだ。まだ戦争はそれほど激しくなかったが、海岸沿いに兵隊さんの駐屯地があった。一人で海辺に行ったら、見張りでもしていたのか、兵隊さんが一人いた。「これ、あげよう」と言って、桃を一つくれた。見たこともなかった美しいものをもらって、うれしくて、頬ずりしながら家に帰った。家に着くころには、桃のうぶげが頬に刺さって、イガイガとかゆくなっていた。記憶はそこまでで、食べたのかどうか、覚えていない。

今でも、桃を見るたび、あの時を思い出す。兵隊さんは、どんな気持で桃を私にくれたのだろう。故郷に残してきた家族、妹などを思い出していたのだろうか。あの後、彼はどうなったのだろう。

桃をくださった福島の方は、若いころ一人のシスターに支えられて苦しい時代を乗り越えられたとのこと。そのシスターはもう亡くなったので、その人と同じ会に属している私たちによくしてくださる。脊髄の痛みがあり、眠れない夜もあるらしい。そんなご苦労も抱えながら、こちらを思いやってくださるお気持を本当にありがたく思う。福島の桃は、私の桃の二つ目の思い出になる。

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