心臓がバクバク
ない、ない、ない。どこを探しても、ない。探し物をして、二日目になる。雑用・所用の合間をぬって、机の引出しを引っ張り出したり、本棚のファイルケースを1ページずつ繰ってみても、ない。探しているのは、近々小さなグループでする話のための資料である。たしか、まとめて置いたはずのものが、どこにもない。探し物をするときに頼りにするマックス(=マキシミリアン・コルベ)に、「お願いします」と心の中でいうが、見つからない。もしかすると、最近、蔵書を処分した時に、うっかりいっしょに捨ててしまったのではないか、と思うと心臓がバクバクしてくる。蔵書、書類などなど、すっかり処分したから、話のために別の内容のものを用意するのも困難である。
囚人姿のマックスの絵葉書をケースに入れて、机の上に置いているが、ほかのものに埋もれている。それを取り出して、電気スタンドの前に立てかけておいた。椅子に座り、なにげなく引出しを引いて、手に触れた封筒をもちあげたら、それだった。ゾクッとした。マックスがそばに立っているような感じがした。
脳神経学的な説明もできるのかもしれない。どこに置いたのかは、脳のどこかで記録されている。でも、その記憶が取り出せない状態になっている。別の脳波が働くと、その記憶を取り出す回路が開く…とか。
そんな説明はどうでもよくて、私は目に見えない助っ人マックスに感謝している。神様の世界に入った人たちは、マックスに限らず、神様と同じように私たちを助けたいと思っているに違いない。