イエスと笑い
ドミニコ会司祭である米田彰男神父による『イエスは四度笑った』(筑摩書房、2024年)を読んだ。同書によると、『ユダの福音』という写本が存在するそうである。マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネによる正典福音書成立直後に書かれたらしい。『ユダの福音』のなかで、イエスが四度笑っている。米田神父は、その笑いが、史的イエスの笑いではなく、異端グノーシス派の思想によるものであることを論証している。
それでは、イエスは笑ったことがなかったのだろうか。同神父は正典福音書に記されていないだけであろうとし、イエスのユーモアをかいま見せる言葉を拾っている。
米田神父著の同上書から私が初めて知ったことがあった。「右の頬を打たれたら、左の頬を出せ」というイエスの言葉の意味である。相手の右の頬を打つには、打つ方は右手の甲を使う。それは上位にあるものが下位の卑しいものを打つ時のやり方である。左の頬を出せば、こぶしで殴るか平手で打たなくてはならない。それは人間として対等であるものに対する暴力である。
イエスの聴衆は虐げられた貧しい人々であった。その人たちに、イエスは反逆する暴力でも忍従でもない、第三の道をすすめた。人として対等に扱われることを求める、第三の道を示した。